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つのまにか降り出していた雨が酷く優しくて戸惑った。 「終わったのか?」 獄寺は問いかけた。山本は答えない。しかし山本が 握りしめたままの刀には未だ鮮やかな赤が幾筋にも伝わり、下に向けられた切っ先から滴りおちたそれが足元に血だまりを作っていた。返り血だろうか、刀の柄 に絡まった小指が赤に彩られていた。 「終わったんだな」 獄寺は言った。山本はやはり、応えなかった。 今日は、山本の誕生日。 本 当ならこの後ふたりでいつも行くバールで軽く一杯引っかけてふたりで暮らすアパートに帰ってふたりでレンタルしてきた映画をふたりで見ながらまた一 杯、それからいいタイミングで用意していたプレゼントを渡していつものようにふたりでセックス、その流れだった。しかし、突然の襲撃に予定が狂ってしまっ た。 ――こいつらも空気読めっての だって今日は山本の誕生日だ。 ――ああでも幹部の情報が敵対組織に漏れてたら、 それはそれで問題か それに二十歳もとうに過ぎたマフィアの幹部二人が
ふたりきりでささやかに誕生日を祝い合ってるだなんて普通考えないだろうしそもそもこんな稼業の身の上で今まで毎年互いの誕生日を祝えてきたことすら奇跡
みたいなもんなんだ、その背後にふたりの関係を知る唯一の存在である10代目の計らいが絡んでいることは確かでふたりに
とって唯一絶対の存在である彼の優しさにふたりはどれだけ救われてきたのだろうと、想う。 「終わったんだぜ、……山本」 ひゅ るりと燕が啼く。雨は降り続ける。山本の身体が震えているような気がして、胸元にそっと寄り添い肩口に頭を傾ける。鼻を擽る山本の体臭に、未だ冷めやらぬ 高揚感が身体の奥のやわらかな部分にじん、と溜まっていくのを感じる。獄寺は衝動のまま、目の前の、山本の、肌蹴たシャツから覗くくっきりと浮かび上がった綺麗な綺麗な鎖骨に たまった水滴を舌先で舐め取った。ぴりり、広がる刺激は山本の汗かそれとも山本が切った男達の血か。山本を壁に押さえつけたままれろり、鎖骨にたまった水 滴を丁寧に啜る。右と、左と、ふたつの鎖骨を舐め上げ最後にかりりと歯を立てて見せた。それでも山本が何も言わないから、髪を辿って首筋をなぞって鎖骨に たまった水滴を噛み痕から滲んだ血と共に舐め取る。雨と、汗と、血と。舌先を濡らした滴のひとつひとつを想いながら、口内を満たすそれらに獄寺はそっと瞼 を閉じた。瞬きをした拍子に睫毛に絡んでいた水滴が頬を伝わり唇を濡らす。唇を濡らした水滴を舌先で舐め取る。そこまでして、ようやく、安心した。自分は きちんと目の前の現実を受け止められているのだと、だからこんなに乾いているのだと知って、安心した。 柄を掴んだままの山本の掌、その小指に、獄寺は自
身の小指を絡ませた。 2011.07.11
hito ha shinu to 21g karukunaru. |