sample
side*BLACK


 
 
 山本は獄寺の腕を掴むと、殆ど引きずるような形でベッドルームへと向かった。獄寺は目の前の広い背中を見失わぬよう、足がもつれないよう必死で山本の後に続く。ベッドルームまでの間、山本は一度も獄寺を振り返りはしなかった。
 薄暗いベッドルームへ付いて、ようやく山本は獄寺の腕から手を放した。強い力で握られ続けた腕は痺れ、熱を持っている。山本はベッドまで近づいて緩められたネクタイを取り去ってしまうと、くるりと振り返ってドアの前で立ち尽くす獄寺を小さく手招いた。吸い寄せられるようにして近づいた獄寺に、山本はあの冷たい笑みと共に口を開く。
 「脱げよ」
 「な……っ」
 獄寺は山本の目を見て、そして全身が総毛立つのを感じた。山本の瞳は、夜の海のように暗く、冷たく獄寺を映していた。
 「脱がないとできないだろ?な、……獄寺」
 揺れる獄寺の目を見つめ、山本はそう言った。山本の口元に浮かぶ薄い笑みに、獄寺は唇を戦慄かせた。
 山本の視線を感じながら、獄寺は震える手を自身のシャツに掛けた。だが、震える指先では上手くボタンを外すことが出来ず、獄寺の背にじっとりと汗が滲む。それでも獄寺は、苦心してシャツを脱ぎ去った。白いシャツが床に落ち、粟立つ肌が露わになる。獄寺は靴を靴下ごと脱いでしまうと、ベルトに手を掛けた。ぱさり、と脱ぎ捨てられた獄寺の服が、その足元に重なっていく。その間、山本はただ黙って獄寺の表情を見続けていた。
 間もなく獄寺はその肢体の全てを薄闇に曝け出した。素肌を撫でる夜風の冷たさに――そして向けられる視線の冷たさに――ふるり、と獄寺は身震いをした。山本は獄寺にゆっくりと近づくと、その頬に優しい仕草で掌を寄せる。ふわり、とまたあの甘い香りがし、獄寺の感覚を麻痺させていく。促されるままにベッドに腰を下ろした獄寺は、すぐに圧し掛かって来る存在と共に、ベッドに身体を沈めた。甘い香りがした。









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「任務後の武くん」という同設定で黒武と白武の2つのお話しを書いているので、最初の方のシチュエーションとか2つとももろかぶりたったりします;;

黒武はとにかく鬼畜。酷い男です。でも、悲しい男です