黒と白 sample
side*white
「ちょっと、力、入んなくて」
はは、と山本は自嘲気味に笑う。伏せられた目もとには影が落ちていた。スーツ姿のまま座り込む山本の肩を、ぱららと降るシャワーの水が濡らしていく。山本が笑った拍子に獄寺の肌に跳ねた水滴は酷く冷たく、ぬくもりのかけらもない。排水溝へと流れる水は僅かながらに血の香り、雨で流しきることの出来なかったそれはきっと全て返り血なのだろうと獄寺はぼんやりと思った。黒いスーツは血が目立たない。
「……冷えるぞ」
「うん」
「……寒いか?」
「うん」
山本は、瞼を伏せたままこくりと頷いた。獄寺はゆっくりと膝を曲げると、山本の腕の中に自身の身を沈めた。ぱらら、と山本を濡らす雨が、獄寺をも包み込む。背中に回した腕にそっと力を込めれば、首筋にかかる吐息が震えた。
「お前、冷たい」
獄寺は山本の肩口に顔を埋めたまま呟いた。抱きしめた背中は確かに立派な成人男性のものであるのに、酷く頼りないもののように獄寺には感じられた。ぎゅっと抱き寄せれば、山本の両腕がぴくり、と揺れた。
「獄寺は……温かいな」
揺れた両腕はふらふらと雨の中を彷徨い、やがて獄寺の背中へ添えられた。
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「任務後の武くん」という同設定で黒武と白武の2つのお話しを書いているので、最初の方のシチュエーションとか2つとももろかぶりたったりします;;
雨の日、任務の後、獄寺君を訪ねる武君。
白武は弱い男。目を伏せて笑う、男。
白武verだと浴室えっちだよ★、とあんまり嬉しくない情報。