「手折られてもまだ、美しいとは――」 口元を伝う白濁を皮手袋に包まれた指先で拭ってやり、スペードは惹かれるままにGの唇を塞いだ。 「……っ、……!」 瞬間、ぴりりと舌先に走った衝撃に、スペードはGの顔を引き剥がした。ゆらり、と向けられた緋色の瞳がスペードを真っすぐに貫く。僅かに笑みを浮かべる Gの唇は自身のものではない紅で彩られている。口内に溢れる覚えのある甘美さにスペードはGが何をしたのかを悟った。 「なるほど、」 スペードの笑みが深まる。 「それでこそ、調教しがいがあるというものです」 スペードは自身の血に濡れた唇を舐めると、たった今Gを犯したふたりの男に視線で命令を下す。男たちは興奮冷めやらぬ顔つきで、それでもスペードの意を 正確に受け取って無言のままに頷いた。寝台に肢体を投げ出したままのGの身体を抱え上げると、部屋の中心へ引きずり出しその手首を革ひもで縛る。きつく締 められた結び目を天井から繋がる鎖に固定し、Gの身体を吊下ろした。Gはその時初めて天井から垂れる鎖の存在に気づき、同時に自身の今の状態を思い出して かっと頬を赤く染めた。男たちの身勝手な行為により煽られた中心は立ち上がり、濡れた花芯は蝋燭の灯りに妖しく彩られている。なんとか拘束から逃れようと Gは身体を捩ったが、足が床に触れるか触れないかという不安定な状態で吊り下げられたGの身体はゆらりと揺れるだけで、堅い拘束は緩みそうもない。激しい 抵抗に先ほど男が吐き出した白濁が内腿から脹脛を伝い、不快感にGは顔を歪めて元凶である男を睨みつけた。 スペードは少し距離を取り、露わにされたGの痴態をまるで美術品でも鑑賞するかのように見つめていた。嘗め回すような視線が乱れた髪の先から力の入った 足の爪先までを辿る。晒された脚の間でいったん停止した視線の動きは、明らかな意図をGに見せ付けた。羞恥に染まる頬、しかしそれでもGはスペードを睨み 続ける。 スペードは指先で唇をひと撫でし、その指先で未だGに粘着質な視線を送り続ける男たちを追いやる。男達は命じられるがままに部屋の隅に控え、これから行 われるであろうことへの期待を孕んだ視線を携え中心の二人を見守った。 「さて、」 スペードはステップでも踏むような優雅さでゆっくりとGに歩み寄ると、恭しい態度で頭を下げた。腰を曲げたまま片手を胸に当ててGを見つめると、その赤 い唇を歪ませる。 「どうか、私とワルツを一曲」 踊ってくれませんか? スペードは歌うようにそういった。 (「カウントダウ
ン」加筆部分より)
**** 「まだわかっていないようですね」 Gは近づくスペードを警戒するように下から睨みつけた。 「あなたは私の支配下にある。何を与え……何を奪うも、全て我が意のまま」 自身の言葉に酔いしれるように、スペードは低く笑うとGを見下ろした。Gを繋ぐ鎖を上へ引き、膝立ちにさせると顔を固定してその煌めく瞳を見つめる。 「水が呑みたいのならそう私に請えばいいのです」 簡単なことですよ、スペードの言葉にも揺れることのない瞳は炎の色。その瞳を覗きこもうと顔を寄せたスペードに、Gは唾を吐いた。スペードの顔から笑み が消える。 「――本当に、行儀の悪い」 次の瞬間、振り上げられたスペードの手がGの頬を張った。強い力にふらついたGの足は寝台の側面にぶつかり、そのまま上半身を寝台の上に投げ出す形に崩 れる。 「……強情なのは流石に飽きました」 踵を返したスペードは、別のテーブルから新たな水差しを取り上げる。透き通る水に満たされた容器の注ぎ口をGの頭上で傾けた。 「っ、」 冷たい、衝撃。透明な水が白亜の肌の上で弾け、濡れた深紅の髪からぽたり、と水が滴る。全身を濡らしたGは呆然とスペードを見た。 薄い唇から小さく覗いたGの舌先が頬を流れる水滴を掬い上げる。抗う理性と、見え隠れする本能。スペードはうっそりと笑い、隠し持っていたボトルを取り 出した。素早くコルクを抜いて中身を口に含み、Gが瞬きをした隙に濡れた唇に深く口付ける。こくり、とGの喉が鳴り、間近で赤く染まった瞳が見開かれる。 艶めく髪を指先でなぞり、その目が反抗的な色を映す前に唇を解放した。 「ってめ!……な…っ、」 なにを、と言いかけたGの言葉が不自然に途切れる。口の中に広がるのは豊かな葡萄の酸味と甘さ、それに混じるぴりりとした苦みが舌を刺激する。液体が流 れ通った器官が、爛れたように、熱い。呑まされた液体は体内に吸収され、どくり、どくりと脈打つ心臓に合わせ、熱が全身を駆け巡る。Gはスペードを見上 げ、そしてそこに浮かぶ笑みと掲げられたボトルの中、とぷりと揺れる血色の液体を見た。 「貴方と楽しもうと思いましてね……特別に用意させたのですよ」 お口に合いませんか?、耳元で囁かれた言葉の意味は早速Gの意識に入っておらず、しかし皮膚を掠める熱い吐息にびくりと大きく身が震える。スペードは密 やかに笑った。 用意させた葡萄酒に含まれる苦味の正体は植物の根を乾燥させて生成する薬物で、身体の自由を奪うもの。 自由を奪われた身体は、もう、快楽に溺れること しかできない。 (スペG書き下ろ
しより)
G様はピーチ姫
スペードは変態 大体そんな感じ |