落下する速度で目を覚ます。 それは暗闇の中、石段を上っている時、もう一段存在すると疑いもせずに踏み出した足がかつん、と空を掻いた時のような、ひやりとした感覚を心に刻む目覚 めだった。 一度瞬きをし、ずきり、ずきりと鈍い頭痛に眉をしかめつつ見渡した部屋に見覚えはなかった。部屋は酷く狭く、部屋の半分は身体を横たえている不釣り合い に広い寝台が占領していた。四方は壁に囲われ、窓は見当たらない。自身がどのような状況にあるかは定かではないが、少なくとも、いい状況でないことは確か だ。 小さく舌打ちをし、Gは横たえられた身を起こした。身体は鉛のように重く、指先を動かすことすら億劫だ。くらり、と訪れた眩暈をこめかみを押さえること でやり過ごす。意識は霧がかかったように朦朧とし、どうも記憶が曖昧だ。もう一度こめかみを押し、体を包むように巻きつけられていた掛け布を剥いだ所 でGはぎくり、と一瞬動きを止めた。Gの衣服は取り払われ、シーツの下の身体はなにも身につけてはいなかった。ずきり、と頭痛が消えない。 困惑のまま、壁に接したのとは反対側、寝台を包み込むように垂らされた布地へと手を伸ばす。ここが何処なのか、どういう状況に置かれているのか。少しで も情報を手に入れる必要がある。頭に浮かんだのは幼馴染の顔で、Gは縋るような気持ちで手を伸ばした。 不意に、そのカーテンの向こうから低い笑いが耳に入り、Gはぴくりと手を止めた。 「お目覚めですか、眠り姫?」 Gの指先で、外側からカーテンは勢いをつけて捲りあげられた。Gは逃れる間もなく、声の主によって喉を捕らえられ、腰周りに掛け布を纏わりつかせたまま 背を強かに背後の壁に打ちつけた。 「ようこそ、G」 「スペード…っ!!」 思い通りにならない身体で、それでもGは喉を圧迫する腕をどうにか払いのける。軽く咳き込みつつ、Gは目の前の男に鋭い視線を向けた。 「んで、てめえが……」 「おやおや、あなたにしては随分察しが悪いですね」 あの男の右腕ともあろうあなたが、唇を歪めるスペードを睨み上げながらも、Gはその背後に頑丈な扉があるのを見落とさなかった。 「折角私の城まで足をお運びいただいたんです、どうぞごゆるりとお寛ぎください」 「てめえの、城だと?」 スペードは笑みを深める。その笑みに、Gは突然足元から崩れる感覚に襲われたことを思い出し、そして全てを悟った。 自身の失態に舌打ちをし、Gはぼやけた頭を働かせる。一歩、足を踏み出したスペードから身を引くと見せかけ壁伝いを動き、Gは寝台の足側にさり気なく移 動した。その間も、Gは瞬きすらせずにスペードを睨みつけたままだった。 「あなたのその目……ぞくぞくしますね」 んー、と唇を舐めるスペードに、Gは視線を鋭くする。 と、突然、唯一の出入り口がノックされた。スペードが振り返り、Gは弾かれたように扉を凝視した。閂が外される音、扉が内側に開く。 瞬間、Gは硬い寝台を蹴り、床に飛び降りた。全速力で部屋を横切り、扉に手を掛ける。だが開いた隙間から外に肩を捩じ込もうとしたところで、後ろから伸 ばされた腕に動きを阻まれた。 「……っ」 「――だからあなたは甘いのですよ」 肩まである髪を掴み、引きずり下ろしたのはスペードの手だった。Gの顎がのけ反り、白い首筋が露わになる。 「私があなたを逃がすとでも思ったのですか?それに、仮にそこの扉を破っても、何重にも錠のかけられた扉があることをお忘れなく」 言葉はどこまでも優雅に、しかし乱暴にGを寝台に突き飛ばすと、スペードは部屋の外で成り行きを伺う者達を呼び入れた。スペードの配下であろう騎士たち に両脇を挟まれ姿を現したのは、異国の顔立ちをした商人のようだった。闇に生きる人間であることは明らかだ、Gは気配からそう察し、しかし肩を強く押さえ つけるスペードの手から逃れることはできなかった。 「お判りでしょう?」 スペードの問いかけに、商人の男は寝台に横たわるGの姿を一瞬見てうっすらと笑みを浮かべると頷いた。 「抵抗される場合は……」 「ご心配なく」 スペードは控える騎士二人を指して瞳を細める。心得たように男たちの唇が歪む。 「さあ、始めましょう」 微笑みと共にそう言い放ち、スペードは入り口の傍に退いた。 スペードの言葉で、二人の男たちが寝台に膝を掛けた。偏った重みに、寝台が片一方に沈み込む。Gは逃げ道を求めて後ずさったが、壁と寝台の隅にすぐに突 き当たってしまう。男は低く笑うとに手を伸ばした。 「汚え手で触んじゃねえっ!!」 脚を押さえ込もうとした男の腹を目掛けて、Gは裸足の足を蹴り上げた。掛け布に隠された足は、男の不意をついて狙い通りの場所に入る。そのまま踵で蹴り 落とそうとしたのだが、そこまでは叶わず、Gは横合いから別の男の手に足首を捉えられた。寝台の中央に引き出される。 「この……っ!!」 蹴られた腹を押さえ、両目をぎらつかせた男がGの肩を乱雑に掴む。肩に食い込む指の力に、Gは僅かに顔を歪める。男は攻撃に移ろうとしていたGの手を纏 めてしまうと、頭上で捻り上げた。流石に相手は騎士、敵をねじ伏せるやり方は心得ていた。方法を問わなければ肩を外すなり抜ける方法はあるのだが今それを 行うわけにはいかない、Gは男たちの出方を伺った。 「スペード様!」 足を押さえ込んだ方の男が、スペードへと声をかける。 スペードは二人の騎士の下で、透き通るように滑らかな肌が完全に押さえ込まれまいともがき抵抗を続ける様を、興味をそそられる見世物のように見物した。 んー、唇を指先で軽くなぞり、スペードは男たちに指示を出す。 「多少は構いません。ああ、痕は残さないようにしてくださいね?彼の肌に私以外の男が付けた痕など残されたくないので」 男たちが頷き、Gの喉から詰まった呻きが上がった。スペードの許可を得た男の拳がGの脇腹に食い込む。Gは身を折って痛みを耐えた。 「スペード様」 幕の向こうの攻防を気にかけつつ、商人の男はスペードに持参した箱を示して声を潜め囁き掛けた。 「薬の類はどういたしましょう。幾種類か用意がありますが、」 「そうですねえ……」 スペードは顎に手を置き、少しばかり思案する様子を見せる。一度ちらりとGを見つめ、スペードはにっこりとほほ笑んだ。 「使わずに」 「そ、それではいささか、手間がかかります」 「余計な効果のあるものは使いたくない……そのまま、堕としなさい」 スペードは瞳を細めて囁くと、寝台の天幕を払い商人の男を導いた。強烈な幻覚を用いてGをここまで攫ってきたのだ――普通の幻覚では聡い彼にすぐ見破 られてしまう――、彼はかなりのダメージを負っているに違いない。体力が尽きたのか、機会をうかがっているのか、見下ろしたGは屈強な騎士二人に両手両足 を縫いとめられたまま荒い呼吸に裸の胸を上下させていた。しかしそれでもなお強さを失うことのない瞳の輝きに、スペードはうっそりと笑う。 「脚を開かせなさい」 「な、」 スペードの命に、仰向けに押さえ込まれていたGの膝が左右に割られた。 Gは顔色を変えると、手足に力を込めた。行われようとしている事は想像がつく。機を見るなどと悠長なことを考えている場合ではない。必死に男たちの手か ら逃れようと抵抗するGの心を見透かしてか、スペードはGの頭の隣に浅く腰掛けた。 眉間に皺の寄ったGの額に手をかけ、スペードはその耳元へ顔を寄せる。Gの頭がそむけられようとするのを抑え込み、愛を謳う声で囁いた。 「抗っても構いませんよ。あなたが仕えるあの男がどうなっても良いのでしたらね」 「――てめえごときがあいつに手出しできるとでも思ってんのかよ?思いあがってんじゃねえぞ、クソが」 「な、貴様、スペード様になんという口の利き方を!」 騎士のひとりが戒めるようにGの頬を張る。走った衝撃と口内に広がる血の味に、だがGは血と共に唾を吐き捨てスペードを睨みつけた。スペードはGの顎を 固定し瞳を覗きこむと、にこりと笑みを浮かべて見せる。 「確かに彼は一筋縄にはいかないでしょう。けれどあなたは御存じのはず。彼の揺るがぬ決意と強さは、あなたの存在あってこそのもの」 「……なにが言いたい?」 「わからないのですか?」 睨みつけるGの髪に指を絡ませ、スペードは恭しい仕草でそこに口づけを落とす。 「彼を支えるのも、彼を崩壊させるのも、あなたの存在だということですよ……皮肉ですね」 そしてあなたは今、ここにいる。 無言のGに「今にわかりますよ」と笑みで返し、スペードは片手でひらりと部下に指示を送り、Gの元から離れた。 Gの両足はさらに開かれ、ついに最後まで腰周りに残っていた布地が取り払われた。複数の視線に裸体を晒され、Gは湧き上がる羞恥を隠そうと唇を噛みしめ る。 Gは横たわった長身の向きを少し移動させられた。そうすると、開脚した中心をスペードに向かって正面から晒すことになる。 「いい眺めですね」 「っ、」 スペードの言葉にかっ、と頬を染めたGは目の前の男に殴りかかろうとしたが、強い力で身体を拘束する腕がそれを許すはずがなかった。スペードの腹心の二 者は、それぞれが右半身と左半身にわかれ、Gの両足と両腕を動かぬように押さえつけていた。 「……っ!!」 ふいに下腹部に感じた冷たさに、Gは息を短く呑んだ。Gの視界の下方に、蝋燭の炎の照明できらめく液体が見えた。粘性の高い液体は、ゆっくりと 筋を描いて付け根の奥に流れ落ちてゆく。薄い皮膚の上を不快さが伝う。 「やめ…ろっ……!!」 オイルに濡れたそこに何かの先端が触れて、Gは足を蹴り上げかけた。しかし強い力で押さえこまれた足は、足首が持ち上がった程度だった。 「どうしました?もっと抗ってみてはいかがです?」 スペードの煽りを、Gは頭を振るうことで聞き流そうと努めた。 Gの反応に一旦は引っ込んだ手が、再び探ってくる。手は、スペードが呼び込んだ男のものだった。そして男は中指ほどの直径の棒を手にしていた。Gの中心 には触れずに、最初から後ろに息づく蕾へと続く道を辿る。肌を伝うオイルを棒の丸い先端で掬い取り、蕾に擦り付けられる。 「やめ、……ざ、けんな……っぁう!!」 Gの口から呻き声が零れる。大きく開いた足の奥部、入り口を押されたと感じるや否や中を穿たれる。異物感にGは反射的に身を捩った。強く握りしめた掌に 爪が食い込み、その痛みに縋り意識を保つことで精いっぱいだ。Gに構わず、内側を進む異物は内部を寛げようとする。円を描くように回されて、Gは声が漏れ ないように唇を噛みしめる歯に力を込めた。 ひとしきり掻き回されてから、内部を埋めていたものが引き抜かれた。思わずGは安堵の息を漏らしたが、男が持ちだしたものを目にして再び身を強張らせ た。男が手にしたのは先ほどの棒より一回り太いもので、先端の丸みに僅かに膨らみがもたせてあった。 反抗を行動に移す前に、その冷たい異物が蕾を突いた。 「……くっ、……!!」 無様な悲鳴はかろうじて飲み込んだ。やわな部分に感じる引き攣るような痛みに、Gはシーツに擦り付けた背を撓らせる。はじめはゆっくりと、次第に速度を 上げて内壁の粘膜を擦る無機質なものが、とある一箇所を掠めた。 「ぁあ……っ、」 瞬間、未だない衝撃がGの身体を駆け巡った。その感覚には、覚えがあった。まぎれもない、快感だった。 商人の男は心得たように笑みを刻むと、スペードに視線を向け頷いた。迷いのない、慣れた手つきだ。機械的な作業に、Gは初めてこの男に対して恐怖に似た感情を覚え た。 Gは緋色の瞳に飾り気の無い天井を映し、細切れに喘ぐ。余計なものを見ないようにと努めるGの視界にスペードは入り込むと、Gの頬に影を落とした。皮手 袋に包まれたスペードの手が、Gの顔から首筋に走る刺青を戯れに指先でなぞる。愛撫にも紛う行為に、Gは吐き気を覚えて顔を顰める。途端にスペードの顔に 浮かんだ笑みは、紛れもない嘲笑だった。 「プリーモとは寝ていないのですか?」 「あ、いつ……は、――っぅあ」 その名を持ち出され、Gは無視することができなかった。関係ない、そう言おうと口を動かした途端に呻きとも喘ぎともつかないものが唇から零れる。ス ペードの手から逃れようと首を振るうが、スペードの手は愛撫紛いの行為を止めようとはしない。 スペードは眉を寄せたGの表情を仔細に観賞し、くすくすと嗤う。 「面白い……もっと私を楽しませて下さいね?」 再び挿入具が入れ替えられ、今度こそGの肢体が跳ねた。噛みしめられたためにじわりと血のにじむGの唇を、スペードがこじ開ける。開かされた唇から、 湿った吐息と声が落ちる。 「スペード様……我々に、」 目の前で欲望に染まるGの嬌態に、そのしなやかな身体を押さえつけていたスペードの配下の男たちが鼻息荒く口を開く。 「いいでしょう」 スペードは頷いて、ひとつひらりと手を振って呼びつけた商人の男を寝台からのかす。何事かを囁きかけたスペードに、彼は少しの間Gに視線を向けていた が、結局従順に退室した。 「くっ!!ん、――ぅっ」 蕾に異物を咥えこまされたまま、Gは仰向けから反転してうつ伏せに寝台に這い蹲る格好を取らされた。 「は、……なせ、!!」 Gは白い背までを紅潮させて、起き上がろうともがいた。しかし、上半身を支え腕を付いたところで頭側に周った男に肩を掴まれ、同時に腰を後ろから押さつ けられてしまう。 既に堅くなった男のそれが腿の裏側に宛がわれ、ひくり、とGの身体が震える。乱暴な手が蕾に挿入された道具を掴み、抜き差しを始める。蕾を犯され、Gは 引き結んでいた唇を解いた。直後、その口にも別の雄が捩じ込まれた。前後から同時に揺さぶりかけられ、Gは気を失いそうになるのを必死で耐えることしかで きなかった。 「ん、ぅ……っん……」 喉の奥を突くものに耐え切れず声を上げて、頭を振る。肩までの毛先が乱れて首筋を打った。 男たちは自分勝手に腰を突き上げ続ける。前の男が小さく呻いたと思ったら、ずるりと口を侵していたものが唇を摺って出ていった。引き抜かれる瞬間に先端 から迸った白濁がGの白い肌と刺青とを汚す。 「ぅあ、あ……ち、……くしょっ!!、ぅ――」 口が解放されても、背後の男の動きは止まっていなかった。興奮を示すものを足の間に激しく擦り付け、擬似的な挿出の感覚を得ようとする。蕾に埋まったま まの淫具がぶつけられる腹に押され、きつく押し込まれてきてはGを苛んだ。 臀部と腿に男の欲を吐きだされても、Gは達せないままだった。二人の騎士が欲を満たし拘束が外れて、Gの四肢はうつ伏せに崩れ落ちる。 投げ出されたGの頭を、スペードの手が引きずりあげた。 「私のものにおなりなさい」 囁かれた言葉は呪詛であり、Gはそれから逃れる術を持たなかった。  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 2010.06.13
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