不如帰














  獄寺の瞳を覗き込み、君の瞳は綺麗だね、と綱吉は微笑んだ。獄寺は静かに瞳を閉じると、綱吉から顔をそらす。
 「っ……!」
 「目、閉じないでよ」
 君の瞳が見えなくなるだろ、綱吉は囁きながらたった今掌で打った獄寺の頬を撫でる。じんわりと広がる熱と冷たい掌の感触に目を見開いた獄寺は、呆然と綱吉の姿を見つめた。綱吉は獄寺の瞳を見て満足そうに冷笑を刻むと、ゆるりと腕を上げる。普段グローブに隠されている指先は、まるで血の通わぬ作り物のように獄寺には感じられた。その指先がシャツの隙間から入り込み素肌に触れる感触に、獄寺は声を震わせた。
 「十代目っ」
 「なに?」
 「やめてください!こんな、……ことっ」
 綱吉は気配だけで笑った。綱吉の冷たい指先は、流れるような優雅さをもって獄寺の服を乱していく。綱吉は獄寺のワイシャツを引き裂くような勢いで脱がせてから、ベルトを外して前を寛がせる。ひやりと素肌に感じた風の冷たさに――あるいは別の何かに――獄寺は自身の肌が粟立つのを感じた。
 「やめ、……て、……くださ、………い」
 熱の通わぬ綱吉の指先は、薄闇の中に仄かに浮かび上がって見えた。その指先が自身の胸元を愛撫する様子に、獄寺は震える。ネクタイで拘束された両手首は、冷え切っていた。
 「ひ、……ぁ、っ」
 綱吉の指が胸元の果実を強く摘み、その痛みに獄寺は背を撓らせた。最初感じた痛みは次第に拡散され、後には甘い快感だけが残る。熱を帯び始めた自身の体を信じたくなくて、獄寺は唇を強く噛み締めた。しかし、綱吉の手が胸元から脇腹を伝い花芯に触れた時、獄寺は瞳を潤ませた。
 「やめ、……正気ですか!?」
 「――正気?」
 思わす叫んだ獄寺は、ゆっくりと紡がれた声にびくりと身を強張らせた。綱吉はじっと獄寺の瞳を覗き込むと、唇を歪ませる。その笑みは、あまりに研ぎ澄まされていた。
 「正気じゃなかったら、今頃俺は君を殺して、全てを喰らってるよ」
 さらり、と綱吉の指先が銀糸の髪を撫でる。
 「この髪も、瞳も、唇も………俺の中に、とけてしまえばいい」
 うっとりとささやかれた言葉に、獄寺は戦慄いた。
 「そうしたら、もう俺たちは永遠に離れない……そうでしょ、獄寺君?」
 狂ってる――獄寺は胸に生じた想いを、しかし口にすることは出来なかった。自身を映す琥珀の瞳が、あまりに真剣な色を帯びていたからだ。口を噤んだ獄寺に、綱吉は手の動きを再開させた。
 「ふ、………ん、ふ、」
 綱吉の指は繊細な動きで獄寺を攻め立てる。ゆっくりと揉みしだくように指を動かされ、獄寺の口からかみ殺せない吐息が漏れる。強く花芯を掴まれ、根本から何度かしごかれると、獄寺はしなやかな背を撓らせ精を放った。綱吉は低い声で笑う。
 「随分早いね。自分で抜いてなかったの?」
 朦朧とする意識の中、獄寺は呼吸を整えながら嘲笑を含んだ綱吉の言葉を聞いていた。だがその言葉に反応を返す余裕など、獄寺にはない。綱吉は呼吸を整えている獄寺の腰を引き寄せると、両足首を掴んで大きく開かせた。獄寺の放った精を指に絡め、綱吉はその間に息づく蕾に躊躇無く指を差し込んだ。
 「っぁ――、い、た………」
 突然の異物感に、獄寺は呻く。綱吉はその呻きを意ともせず、もう一本指を差し込むと獄寺の蕾を犯した。獄寺は唇を噛み締めて、その痛みをやり過ごす。しかし、蕾を犯す綱吉の指がある一点を付いた時、身体を感じたこともないような衝動が突き抜け、獄寺は身体を大きく震わせた。
 「君はここで感じるんだね」
 「ぁ、……っや……め、」
 綱吉は笑みを深めると、その一点を集中的に攻め、獄寺を喘がせた。
 綱吉は獄寺の蕾を十分に慣らしてから指を引き抜くと、既に堅く張りつめた自身を取り出す。獄寺が恐怖に逃げを打つ前に、綱吉は自身で獄寺の蕾を一気に付いた。
 「っ――――、………、」
 声にならない悲鳴が、獄寺の口から漏れる。ぎちぎちと蕾を割かれる痛みに、獄寺の瞳からはらりと涙が零れた。
 「……きつい、ね。もしかして、初めてだった?」
 「……っは、……ぁ、……く」
 綱吉は獄寺の両足を肩に担ぎ上げると、腰を進めてその全てを獄寺の蕾におさめてしまった。あまりの痛みに、獄寺は息をすることすらままならない。獄寺の息が整うのも待たず、綱吉は腰を突き動かした。
 「ひぁ、……っく……ん、……」
 強制的に流し込められる痛みを伴う快楽に、獄寺は流されまいと唇を噛み締めた。強く噛み締めた唇は切れ、じんわりと滲んだ血の香りが鼻腔を掠める。
 「啼いてよ、獄寺君」
 「く、……ん、っ………ふ、」
 「啼いてよ、ね?」
 「っ――ん……くは、……じゅ、……だ、い……、」
 依然凍えた指が首に絡みつく感覚に、獄寺は身を強張らせた。綱吉の指は、ゆっくりと獄寺の首に食い込み、その気管を押しつぶす。獄寺は綱吉の指から逃れようと躍起になったが、両手を拘束された状態では圧し掛かる身体を押し返すことすらままならない。綱吉は身を屈めると、触れ合うほどの近さで獄寺の瞳を覗き込み、唇の端を舐めた。
 「――啼かぬなら、殺してしまえ不如帰」
 「っ!」
 「覚えてる?昔、一緒に読んだよね」
 くつくつと低い声が鼓膜を揺らす。日本で過ごしたあの穏やかな日々の中、二人で覗き込んだ教科書に書かれていたあの言葉、それを口にする綱吉を獄寺は夢見る心地で見つめた。綱吉は、歌うように呟いた。
 「ねえ、啼いてよ、獄寺君」
 「ひ、……く……ぁ、……ぁぁ、……は」
 「俺の、ために――」
 腰の動きが早まり、綱吉の声が僅かに掠れる。首に食い込む冷たい指は寺の息を止め、酸素を求めて開いた口から漏れるのは意味を成さない喘ぎだけだった。生理的な涙に潤んだ瞳で、獄寺はぼんやりと滲む綱吉の顔を仰ぎ見る。涙の向こう側で、綱吉は口を開いた。




 意識を失うその瞬間、獄寺は、あまりに切ない声で、呼ばれたような気がした。









2009.09.19