「客のまらを噛み切ろうとしたんだって?」 永遠に続くかと思われた折檻は、冷たい水と共に頭から被せられた言葉によって終わりを告げた。水に似たの冷たい響きに、獄寺はのろりと顔を上げる。そうして認めた存在を睨みつけようとしたところで両脇から男たち――その男たちは一瞬前まで獄寺を恍惚の顔で殴りつけていた――に頭と肩とを掴まれ、平伏すような形で床に押し付けられてしまう。散々痛めつけられた身体は鈍い痛みを訴え、着物の上からきつく拘束された身体は節々が痺れて感覚がない。それでも獄寺は視線だけで楼主である雲雀を睨みつけ、口を開いた。 「真中にぶら下げてた汚物を掃除してやろうとしただけだ」 感謝してもらいてえくらいだぜ、にいっと紅の引かれた唇を歪める獄寺に、雲雀は煙管をひとつ、燻らせ、膝を折った。 「まだそんな軽口が叩けるの?」 紅嵐、冷たい声が獄寺の源氏名を呼び、声と同質の冷たい指が獄寺の体中に散る痣をそっとなぞる。次の瞬間、その指先は獄寺の銀髪を容赦なく掴みあげていた。 「いっ、……」 「まだ自分の立場がわからないようだね」 雲雀は獄寺の髪を掴んで引き上げ、その顔を自身に向けさせた。獄寺は小さく呻いたが、その瞳から反抗的な色が消えることはなかった。雲雀は憎々しげに獄寺を見下げ、髪を掴む手を緩めると同時に、手の甲でその頬を張る。衝撃に獄寺の顔は横を向き、乱れた髪が湿った首筋に張り付く。 「ねえ、」 「――っ、」 露わになった首筋に熱をもった煙管を押しつけられ、じゅう、と肉の焼ける音と共に獄寺の身体がひくりと撓る。雲雀は煙管を近くの下男に渡すと、獄寺の顎を爪先で持ち上げた。 「わかってるの?」 「――わっちがわかってるのは、こなたの世が苦界だといわすことだけでありんす」 雲雀の爪先が笑みを浮かべた獄寺の無防備な腹に食い込む。獄寺の身体は飛び、仰向けに転がった。咳き込む獄寺を、雲雀は無表情で見下ろした。 「馬鹿にしてるの?」 「……んだ、……お前、意外に利口なんじゃねえか」 獄寺は血と共に唾を吐き捨てると、にっと笑って見せた。雲雀は再び獄寺を蹴り上げる。壁に背をぶつけて呻く獄寺の口元には、それでもなお、笑みが浮かんでいた。 雲雀はそんな獄寺の表情をじっと見つめていたが、ふと、何かを思いついたかのように「草壁」影のように控えていた男を呼び寄せ、その耳元に一言二言、何かを告げた。告げられた草壁は顔色一つ変えずに頷くと、近くの男たちに短く指示を出し、どこかへと姿を消した。草壁の背を見送って再び獄寺に向きあった雲雀は、揺らめく緑色の瞳を目にしてその眉を寄せた。細首に手を掛け身体を引き上げると、その緑眼に自身の姿を映しこませる。 「何を探してるの?」 否、誰を? ぐ、と首を絞める手に力を込めた雲雀に獄寺は小さく呻いたが、雲雀の問いかけに答えようとはしなかった。 「……まあ、いいよ。ちょうどいい機会だし、君にも廓の折檻、というものを教えてあげる」 雲雀は獄寺の首を解放し、床に崩れ落ちた獄寺の腹をもう一度蹴り上げた。そうして後ろに控える男たちに妖艶な笑みひとつで合図を送る。男たちは心得たように目配せ合うと、床に転がる獄寺の身体を乱暴に掴みあげた。 「っ……、」 力なく倒れ込む獄寺を、二人の男が易々と抱え上げた。獄寺は突然の浮遊感に、男たちの拘束から逃れようとがむしゃらに身をよじったが、それは身体に食い込む指の力を強める結果に終わる。獄寺が罵りの言葉を口にしようとした時、獄寺は自身の身体が解放されたということを知る。一瞬、時が止まり、次の瞬間軽い衝撃と共に獄寺の身体は冷たい水の中にあった。 「ぐ、……がは、っ……」 冷たい水を張った風呂に落とされたのだと獄寺が気付いたのは、暫くたってからだった。慌てて開いた口に水が入り込み、獄寺は軽く噎せる。動揺する獄寺を余所に、男達は獄寺の両腕を天井から釣られた荒縄で固定し、その両脚を小さめな風呂の両脇まで開かせ、足首を縄できつく拘束した。風呂に胸元までつかった状態で両脚を限界まで開いた体勢は酷く無防備で、獄寺の表情に動揺が滲む。水は冷たく透き通っており、獄寺の秘部は余すとこなく男達の視線に晒されていた。屈辱的な格好から逃れようと獄寺は開かれた両足に力を込めたが、きつく固定された紐は少しも弛みはしない。羞恥と微かな不安に歪む獄寺の顔を見下げ、雲雀は薄い唇を左右にひいた。用意して、という雲雀の声に、男が数人、一抱えもある桶を手にやってくる。 「これ、なんだか分かる?」 示された桶に何が入っているのか、獄寺には見当もつかなかった。ただ、黙って雲雀を睨みつける。雲雀は笑みを深めた。 「今なら謝罪の言葉くらい聴いてあげるけど?」 「……死んじまえ」 「――やっぱり君には躾が必要なようだね」 怒りに顔を赤く染める獄寺の顎を、雲雀の長い指が捕える。顔を反らそうとする獄寺の耳に、雲雀は口を寄せた。 「精々イイ声で啼きなよ」 雲雀は獄寺の瞳を覗き込んだまま、軽く片手を上げた。その合図と共に、風呂の周りに控えていた男達が手に持った桶を一斉に傾けた。 「な、っ」 桶から零れた黒光りするものが、大量に風呂に入れられていく。獄寺は息を呑んだ。 「鯰だよ」 雲雀は引きつる獄寺の顔を見つめ、さらりと唇を舐めた。 「な、まず……?」 ぬるりとした感覚を素肌に覚え、獄寺はぞくりと身を震わせた。水に放たれた鯰は、狭い風呂中を自由奔放に泳ぎ回る。鯰が敏感な内腿や腹を掠める度、獄寺の身体は悪寒を伴う嫌悪感に震えた。 「鯰の性質って知ってる?」 雲雀は語りかけた。獄寺は答えなかった。ただ、こみ上げる不快感に耐えようと強く掌を握りしめた。獄寺の手首を拘束する荒縄がぎしり、と軋む。 「鯰はね……暗く、狭く、温かな場を好む」 獄寺は震えそうになる唇を噛み、雲雀を鋭い視線で睨みつける。続ける雲雀の声は、どこか愉悦を孕んでいるように思われた。 「だからこうして冷たい水に入れると、どうすると思う?」 鯰の髭が脇腹を掠め、獄寺の肩が微かに震える。男達は期待を孕んだ息を吐きつつ、獄寺の拘束される風呂の周りに集まってきた。雲雀も唇の端を歪め、獄寺の瞳をじっと見つめている。突き刺さる数々の視線に、獄寺が声を荒げようとしたその瞬間、だった。 「………っ―――、ぁ」 ひゅっと息を呑む音と共に、獄寺の表情が強ばる。雲雀は瞳を細めて口を開いた。 「鯰は、狭く温かな空間に潜り込もうとする」 「い……、ぁああ――――」 後孔を無理矢理割かれる痛みに、獄寺の背が大きく撓る。獄寺の蕾を突いた鯰は、その勢いを留めることなく更に奥を目指して身をくねらせた。 「ぅ、……、ぁ――、……――っ」 滑らかな体表は鯰の動きを助け、固く閉ざされた獄寺の蕾をゆっくりと割いていく。拘束から逃れようと身を激しく捩る獄寺の身体は、恐怖と困惑にがくがくと震えていた。獄寺が動く度に水面が揺れ、映り込んだ灯が反射して妖しく輝く。 「へえ、銜え込んで離さない……流石だね」 「ふ、……ぁ、く、――っ」 強く噛みしめた獄寺の唇から、血が滲む。そうでもしないと、口から漏れそうになる吐息を押さえ切れそうにない。その体を蕾に収めた鯰は、場所を確認するかのように時折身を動かし、その度獄寺の身体が撓る。男達は濁った瞳で、水の中をたゆたう獄寺の痴態を見守った。 「ひぅ、……ゃ、め――ぁあっ……、」 一匹が挿入したのをきっかけに、獄寺の蕾に鯰が我先にと群がった。ぷくり、とさらに窄まりを広げられる感覚に、獄寺の目尻にうっすらと涙が滲む。二匹目が蕾を割き、その体表に敏感な秘肉を擦られ、獄寺はこみ上げてくる吐き気に目をきつく瞑った。 「―――ぁっ……っ、」 突然快楽の中心を掴まれ、獄寺は感電したかのように背を反らせた。目を開き、花芯を握りしめる雲雀の指に気づいて「やめ、」獄寺の唇が震える。雲雀の指が花芯の形を確認するかのように動き、直接的な刺激に獄寺の瞳に涙が滲む。滲んだ瞳で、しかし、獄寺は眉を寄せて雲雀を睨んだ――まるで視線で射殺そうとでもするように――。 「興奮しているんだ?浅ましい身体だね」 君みたいな淫乱には陰間が天職じゃない?、雲雀に嘲笑されて初めて、獄寺は自身が冷たい水の中で固く立ち上がっていることに気付かされた。 「は、……なせっ、」 雲雀に向けて放たれた声は熱に掠れていた。雲雀は獄寺の言葉など聞こえていないかのように――実際、聞こえていないのだろう――、手にした花芯をゆっくりと扱き始めた。 「ゃ、あっ……め……ろ――、んぁ」 獄寺の口から洩れた声に快楽の色が滲む。雲雀の手淫から逃れようと身を捩った所で、後孔の鯰が蠢き獄寺の思考を溶かす。好き勝手に広げられた蕾はひりりと焼け爛れたような感覚を獄寺に与える。それが紛れもない快楽だということに気づいてしまい、獄寺の瞳から一筋の涙が伝わった。 「ふ、……ぁっあ、あ―――っ」 雲雀の指に根本から花芯を扱かれ、獄寺は白濁とした蜜を水の中に迸らせた。精射の余韻で震える獄寺の唇に、雲雀は暗い瞳で嗤う。 「そんな風にも啼けるんだね」 「……死ね、――この腐れ外道」 「まだ懲りないんだ。君、馬鹿なの?」 嗤う雲雀に返そうとした獄寺の言葉はしかし、続くことはなかった。いつの間にか三匹に増えた鯰が、獄寺の熱い蕾の中を我が物顔で犯す。肌蹴た襟元から入り込んだ鯰の鰭に胸の飾りをねっとりと撫で上げられ、痺れるような快楽に獄寺は胸を反らせて喘いだ。ぱしゃり、と水が跳ねる。 雲雀はじっと獄寺の表情を眺めていたが、ふいに手を伸ばすと、獄寺の蕾を犯す鯰の尾を掴んだ。 「ぅああ、――……ゃ、……」 雲雀は鯰の尾を掴むと、それを一気に半分くらいまで引き抜いた。ずるりと秘肉を擦られ、排出感にも似た快楽に獄寺の口から喘ぎ声が漏れる。 「そろそろ観念する気になった?」 「ざ、……けん、なっ……っ、」 雲雀の問い掛けに、獄寺は激しく首を振ることで答えた。濡れた銀髪が細い首筋を打つ。 「そう、……本当に君は馬鹿なんだね」 雲雀は鯰を掴んだ手を一気に離した。 「っひ、ぁああ――……、っ…――」 勢いを付けて蕾に入り込んで来た鯰に、獄寺は胸を仰け反らせて再び欲を放った。閉じることを失念していた口の端から、つう、っと唾液が溢れ、反らされた首筋を伝わる。 上から振ってくる雲雀の冷たい視線も、男たちの下劣な視線も、どこか遠くに感じる。鯰は獄寺の身体を気遣う心も持たず、度重なる絶頂にひくつく蕾を擦り、押し広げ、吸い付くような動きを見せる。蕾に群がるに留まらず、貪欲な鯰は獄寺の花芯を軽く喰み、達したばかりの敏感なそこはすぐに力を取り戻した。敏感な部分を刺激され、獄寺は悲鳴に似た喘ぎ声をあげる。襟元から覗く胸の飾りは冷水にさらされて薄桜色に立ち上がり、その存在を主張している。 「ひゃん、ん……ゃ、あ……ゃめ、ろ――」 戯れに雲雀の指で飾りをこねくり回され、獄寺の口から高い喘ぎ声が上がる。雲雀の爪にかりりと先端を引っかかれた途端、獄寺は再び蜜を放っていた。だが、鯰はその動きを留めることを知らない。 「ぅ……っゃ、や――……う――、」 獄寺の瞳からはらはらと涙がこぼれ落ちる。滲む視界と意識の中、獄寺は切ない声で呼ばれた気がした。 *** 気を失った獄寺を風呂から引き上げ、雲雀はその身体を乱暴に床へ投げ出した。後孔を犯す鯰をずるりと勢いよく引き抜けば、獄寺は意識のないままに小さく呻き、びくびくと脚を痙攣させる。最後まで堕ちることを良しとしなかった薄緑色の瞳を忌々しく思いながらも、鯰に犯され恍惚に耐える獄寺の表情を思い出して雲雀はうっそりと笑った。 (余興として、見せるのもいいかもしれない) 精々稼いでもらおう、彼は大切な商品なんだから。 雲雀は獄寺を見つめ、「山本武」気を失った獄寺の傍に蒼い顔で佇む男を呼んだ。 「君、来るのが遅すぎるんじゃない?もうちょっと早く来ればいいものが見れたのに」 その子は天性の淫乱だよ、雲雀が微かに笑みを漏らす。山本の顔から表情が消える。次の瞬間、雲雀は襟首を掴まれていた。途端にざわめきだつ周囲を片手で制し、雲雀は間近に迫った瞳に揺らめく炎を見つめ、笑みを深めた。 しばらくの、静寂。 「……っ、」 山本は結局口を開くことなく瞳を伏せると、雲雀の襟首を解放した。雲雀は軽く襟元を整えると、「それ、君が片付けといて」と意識なく床に転がる獄寺を袖先で示して山本に背を向けた。 「ああ、それと」 声だけで、雲雀は山本を圧倒する。 「その子は僕のだから。手、出したら、かみ殺すよ?」 背後で漏らされた嗚咽を耳に、雲雀は唇を歪め、その場を後にした。 この世は苦界、誰かの言葉が聞こえた気がした。 二次元の世界では既にもうやりつくされた感が否めない遊郭パロ、でもやりたくなっちゃったんだからしかたない。
鯰の性質なんちゃらはかなり昔に仕入れた知識な為、間違っている可能性大。 大目に見てあげてください、これ、ただのポルノですから。 さ/く/ら/んパロディ、なら、惣次郎は絶対十代目。笑う鬼は十代目。 ゲテモノ小説にお付き合いいただきありがとうございました。 2010.03.14 |