γが扉の前に立つと、待ち構えていたかのように扉が開かれた。身体を横にして隙間から部屋に滑り込むと、背後でドアがぱたんと閉じ、続いて施錠される。ふわりと甘い香りが鼻を掠めたと思った次の瞬間、γの唇は温かなものに塞がれていた。触れるだけの口づけから解放されると、γは小さく苦笑を洩らした。 「俺ばかりあんたに命令されてるような気がするな」 「お前も呼びだしゃいいじゃねえか」 γの言葉に返された言葉は面白がる節を孕んでいて、γは肩を竦めると目の前で揺れる銀髪に指を絡ませる。濡れたように艶を放つそれは指先をさらりと流れ、そっと唇を寄せると微かに硝煙の香りがした。隼人、と髪に口付けたまま囁くと、目の前の男は唇だけで笑った。 隼人からの呼び出しはいつも急なくせに、どんな手だかγが現在どの国のどの都市にいるのかを調べ上げ、的確に呼び出してくる。逆にγが隼人を呼び出そうとするといつもタイミングが悪い。ボンゴレの右腕を務める彼は多忙を極め、何よりもまずファミリーを――否、ボンゴレ十代目を――優先する隼人を捕まえるのはなかなか難しい。たまたま仕事先が重なったとしても、イタリア最大マフィアとその同盟ファミリーの幹部が二人でいても問題ない場所など簡単には確保できない。結果、圧倒的にγが隼人の指定する場所に出向くという形が多い。 「文句いいつつも、お前は来るよな」 隼人はじっと上目づかいでγを見つめながら、僅かに首を傾げて見せた。身近で見つめた緑の瞳に静かにチラつく欲望の炎に、γは人知れず息を呑む。 「勘違いするなよ。命令されるのは好きじゃない」 ボスとあんた以外はな、そう付け足すと隼人はくすりと笑ってγの耳元に唇を寄せた。 「だからあんたが好きなんだ」 ***
γを跨ぐ腿がふるりと震える。細い腰に腕を添えて支えてやると、隼人は開いた脚の下にあるγの欲望の根元を握り、ゆっくりと腰を落としていった。すでに準備の施された蕾はγの欲望を誘い込むよう蠢いた。限られた時間内での情事、隼人は慣らす時間すら惜しいとでもいうように事前に自分で受け入れる準備を済ませてしまう。冷徹なる嵐の守護者にしてボンゴレの右腕であるこの男が自分を受け入れるためにその蕾を解す――それはγに少しばかりの優越感をもたらした。密やかに漏らしたはずの微笑にしかし隼人は僅かに眉を寄せると、自身の身体を支えるために手を置いていたγの胸に軽く爪を立てた。γは無言のまま笑みを深めると、宥めるように隼人の腰を優しく撫であげる。隼人はしばらくγを見下ろしていたが、小さくため息をつくと再び動きを再開させた。 時折息を整えながら、隼人は最後まで自らにγを挿入していった。反らされた首筋を一筋の汗が伝い、汗はγの胸に落ちて弾ける。γの下半身の上に完全に座り込んでしまうと、隼人は短い呼吸を繰り返した。 「ふ、・・・は、・・ぁ・・」 やがて隼人は、γの胸に置いた両手とベッドについた膝とを使って腰を上下に動かし始めた。押し殺した喘ぎ声が、薄く開かれた唇を濡らす。汗に濡れた隼人の肌はうっすらと上気し、昼下がりの光に彩られて艶めいて見えた。 「・・・、ぁ・・・・ん、・・」 γは下からゆるく突き上げながら、隼人の花芯に指を添わせた。掠れた喘ぎが隼人の唇から零れる。隼人の花芯は既に立ち上がり、先端から溢れる先走りの蜜がγの指を濡らした。 隼人の腰の動きが激しさを増す。薄く開かれた唇は濡れ、さらりと揺れる銀髪が汗で首筋に張り付いていた。γの腰を跨ぐ太ももが細かく痙攣し、隼人の絶頂の近さを物語っていた。寄せられた隼人の眉は酷く悩ましげで、目元はうっすらと赤く染まっている。 「っは――あぁ・・・、ぁ・・・っ」 びくり、と隼人の細い腰が震え、花芯に絡まるγの指に蜜が迸った。直後の締め付けに、γも低くうめくと隼人の中に自身の熱を吐き出した。 部屋の中には二人の荒い吐息だけが満ちていた。 ***
γ、と隼人の声が聞こえ、しばらくしてから自分の名前を呼ばれたのだと気がついた。隣で裸のまま横たわる隼人になんだ、と視線だけで問いかけると、キスしようぜ、と微笑まれた。惹かれるようにしてキスを交わすと、「あんたが好きだ」と隼人は呟いた。 「きっと一生片想いなんだろうけどな」 片想い?、と問い返したγに浮かべられた隼人の笑みは酷く美しく、細められた瞳はγを映しているようでいてどこか遠くを見つめているように思えた。ボンゴレとジッリョネロが同盟を締結するその席で初めて出会った時も、隼人はそんな眼差しでγのことを見つめた。γ、と隼人の口にされた名は確かになじみ深い自身の名であるのに何故か聞きなれない他の誰かの名前のように感じられ、しかしその名は隼人の唇によくなじんでいるように思われた。 遠い眼で自身を見つめる隼人を見つめかえし、「愛してる」と囁くと僅かに透きとおる緑色の目が見開かれ、ふっと緩む。 「ああ、……知ってる」 隼人は微笑んだ。泣き出しそうな顔だな、と思った。キスを強請るようにうすく瞳を閉じる隼人に、γも瞳を閉じるとあの遠くを見つめる眼差しから目をそらした。 口付けの合間、γ、と隼人は遠くの誰かに呼びかけるように、目の前の俺の名前を呼んだ。 +++++++++++++++++++++++ 補足的な何か↓ 隼人が本当に愛しているのは過去、十年後の世界に飛ばされた時に出会ったγ。 元の世界に戻り、そうして”自分の変えてしまった未来”で出会ったγに惹かれる隼人。しかしふと漏らされる微笑みだとか自分に触れる指先だとかに”本当に愛したγ”との違いに気づいてしまい、”本当に愛したγ”はもうこの変わってしまった未来には存在しないのだということを知り、しかしそれでも離れることなどできないから、と、目の前のγに幼い自分の出会った”本当に愛したγ”の面影を追い求める隼人……というのをγさん視点で書いてみました。 きっとこの補足を読まないと意味不明ですね;; 2009.06.12
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