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この想いに終わりなどはないと、彼は言った
なら終わらせてしまえばいいと、俺は思った









「ツナ」
 背後から掛けられた聞き覚えのある声に、綱吉は廊下を歩いていた足を止めるとゆっくりと振り返った。そうして視線の先に予想した通りの人物を見つけると、「山本、」と微笑む。
 「どうしたの?」
 足早に近づいてきた山本に問いかけると、山本は「いや、ちょっと、な」と僅かに顔を曇らせた。
 「獄寺、知らねえ?」
 「獄寺君?」
 「どこ探しても見つからねえんだ。あいつの部下も知らないって言うし、連絡もつかないのな」
 どこ行っちまったんだろう、とそう呟く山本の声は弱弱しい。僅かに俯くその目元には影が落ちていた。山本の表情をじっくりと観察してから、綱吉は静かに口を開いた。
 「獄寺君なら今、長期任務で海外に飛んでるよ」
 「……え?」
 「急に入った任務だからまだみんなには伝わってないと思うんだけど。山本も、昨日まで出張で忙しかっただろうし」
 弾かれたように顔をあげる山本に、綱吉はにっこりと笑いかけた。綱吉の微笑みに山本は僅かに視線を揺るがせた後、そっか、と小さく呟いた。綱吉は、秘かに、笑みを深めた。
 「でも意外だな、山本が知らないなんて。獄寺君、どんなに忙しくても任務の前は山本に連絡入れてたのにね」
 「………そう、だな」
 山本はそう言って乾いた笑いを洩らした。
 山本と別れると、綱吉はすぐ自室へ向かった。冷え冷えとした部屋に入り、誰も入って来られないように鍵を閉めてしまうと、綱吉は声を押し殺して笑った。酷く、愉快だった。笑いが止まらない。
 そうしてしばらく扉に寄りかかったまま笑っていた綱吉は、突如部屋の奥から聞こえてきた物音――それは酷く小さなものであったが、それを綱吉が聞き逃すことなどありえなかった――に、薄く笑みを浮かべたまま部屋の奥へと足を進めた。綱吉は壁の突き当たりまで進むと、壁の一部分を、こつ、と指先で小さく叩く。するとそれまで何の変哲もなかった壁が音もなく動き、隠された扉が姿を現した。それはつい最近、綱吉が秘かに作らせたものであった。そう、彼の右腕でさえも知らぬうちに、秘かに。扉の前に立つと、綱吉は鍵穴に小さな金の鍵を差し込む。かちゃり、と鍵の開く乾いた音が響いた。滑り込むようにして部屋に入ると、綱吉はすぐに扉を閉める。
 窓の一つすらない部屋は薄暗く、濃密な静けさが渦巻いていた。綱吉は毛足の長い絨毯を踏みしめ、部屋の中央に置かれたベッドへ向かった。そうしてベッドの上に横たわる彼の姿を認めると、綱吉はにっこりと無邪気な笑みを浮かべた。彼の白く細い手首から、甘美な血の香りが微かに漂っていた。
 「また逃げようとしたの?」
 綱吉が指先で手首を撫でれば、彼の口から微かな喘ぎが漏れた。綱吉の手から逃げるようにして彼が手を動かすと、その手首に付けられた鉄の鎖がしゃらりと軽やかに歌う。薄暗がりでも、その手首が擦れて赤くなっているのがわかった。
 「ダメだよ。傷になっちゃうでしょ?」
 綺麗な肌なんだから大切にしなくちゃ、綱吉は宥めるような口調でそう言うと、ベッドに伏せられていた彼の顎を掴み、自分のほうへ向かせた。透き通った若葉色の瞳が、綱吉を映す。その未だ闇に犯されぬ清らかさに笑みを漏らし、綱吉は優しい仕草で彼に口付けた。
 「ゃ、……!」
 「……っ、」
 途端ぴりりとした痛みと鉄の味に、綱吉は急いで唇を離して彼を見た。
 「……ぁ、…――」
 僅かに戦慄く彼の唇は、紅を差したかのように赤く染まっていた。口内に広がる味と彼の唇を彩る赤に、今彼が何をしたのかを、綱吉は瞬時に理解した。
 「――酷いなぁ」
 綱吉はくすくすと笑みを漏らすと、掌で彼の頬を打った。彼は小さく呻くと、力なくベッドに沈みこんだ。
 「ねえ、覚えてる?昔さ、よく言ってくれたよね」
 彼の体に覆い被さりながら、綱吉は言った。彼はかたかたと震える身体で、それでも必死に綱吉の下から逃げようとした。その腰を押さえ、綱吉は彼の衣服をたくし上げると、下着を剥いだ。
 「“あなたに俺の全てを捧げます”って……あれは、嘘?」
 「じゅ、……だい、…――め、」
 綱吉は既に固くなった中心を彼の蕾に宛った。性急な行動に、彼はその大きな瞳を更に見開いて力無く首を振った。
 「君の全てを俺に頂戴よ。ね、――隼人」
 「いっ、………ぁあああっ」
 引き裂かれる痛みに、獄寺は叫んだ。苦痛の滲む獄寺の声を、綱吉は恍惚として聞いていた。
 




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