何か、軽いものがふれあうような音に、獄寺は目を覚ました。 ゆっくりと目蓋を上げると、そこには薄暗い闇が渦を巻いていた。頭はぼんやりと霞が掛かっているようで、いったい自分はどうしたのだろう、と考えようにもいうことをきかない。分かるのは、自分が今、柔らかなベッドに横たえられている、ということだけだ。息を吐いただけで、身体にぴりりと痺れが走り、獄寺は呻いた。 「起きた?」 突然の声に、獄寺はびくりと身を強ばらせた。 「……誰、だ?」 薄闇の中、声の主を見極めることは今の獄寺には出来なかった。問いかけた獄寺は、ふっと誰かの気配が自分の横に近づいてくるのが分かった。 「俺だよ」 「――じゅ、だいめ?」 「正解」 聞き覚えのある声は常々耳にしているものよりも低く、どこか面白がる節を孕んでいるように感じられた。空気が揺れ、伸ばされた手が獄寺の頬に優しく添えられた。 「……ここ、は?」 「君の為に作らせた部屋」 気に入った?、綱吉は小首を傾け問いかけた。綱吉が手を添えた肌に走る痺れにもにた熱に耐えかねその手を退かそうとした獄寺は、腕の自由がきかなくなっていることに気付いた。腕を動かそうとする度、しゃらりと鋭い金属音が響く。手首に感じるひんやりとした重みに、獄寺は目を見開いた。見開かれた獄寺の瞳が、微かに笑みを浮かべる綱吉を捕える。その瞬間、獄寺は全てを悟った。 「どういう、つもりですか……」 平静を装おうとして失敗した唇は震え、渇ききっている。頭上で拘束された腕は、動かすとぎしりと骨の軋む音がした。 「どういうつもりですか?……十代目!」 「知りたい?」 獄寺の頬を撫でながら、綱吉は歌うようにそう言った。綱吉の手が頬を掠める度にぞくりと背中を走る感覚――この感覚には覚えがある――に、獄寺は戸惑いと共にひとつの答えを導き出し、その答えのあり得なさに目の前が暗くなるのを感じた。 (薬、……?) ぞっとして顔を逸らそうとした獄寺の顎を掴むと、綱吉はゆっくりと顔を近付けた。 「こういうこと」 「!?っぅ、――んっ」 綱吉は獄寺の唇を塞ぐと、急なことで緩んだ獄寺の唇に舌を入れ、歯列をなぞる。そのまま歯列をやすやすと割ると、綱吉の舌は獄寺の舌を巧みに絡め取り、強く吸ってから軽くはんだ。 獄寺は突然の、そしてあまりに激しい口付けに、息も出来ずにただ必死で自分を保とうとする。しかし身体は獄寺を裏切り、だんだんと熱くなる身体は、その行為を快楽と受け止める。知らない感覚ではなかった。だからこそ、余計に獄寺はその反応を抑えられない。口付けの合間に洩れるくぐもった声に、綱吉が微笑むのが合わせた唇から獄寺に伝わった。ようやく唇を解放され、急に入り込んだ酸素に獄寺は軽く咳き込んだ。口の横から、飲み込みきれなかった唾液が漏れ伝う。 「欲しくなっちゃったんだよね――君が」 獄寺君、呼びかけに獄寺は荒い息を吐きながらぼやけた眼差しで綱吉を仰いだ。なんで、と問いかけようとした言葉は声にならずに辺りの薄闇に融けた。 「どうしてだかわからない、って顔してるね」 綱吉の声はどこまでも穏やかだった。 「君は昔っから真っすぐで――オレの言うことは全て正しいですって、よく言ってくれたよね」 ダメツナだったオレにさ、綱吉は目を細めて横たわる獄寺を見下ろした。 「俺の言うことは全て正しいんだろう?……君の全てを、オレに捧げてくれるんだろ?」 さらり、と綱吉の指先が寝台に乱れた獄寺の銀髪を撫でる。 「俺のものに、なってくれるんだよね?」 そういって形作られた綱吉の笑顔は、獄寺が初めて出会ったころのそれと変わらず純粋で、しかし冷たいものだった。 「ねえ、獄寺くん……俺のものになってよ。君の、全てをちょうだいよ」 綱吉は微笑んだままそういった。 自分の全てを捧げると、そう綱吉に誓ったのは獄寺だった。しかし獄寺は自分のいう“全て”と綱吉の望む“全て”が違うのだということを知っていて、だからこそ綱吉の問いかけに頷くことが出来ない。獄寺は綱吉の澄み切った瞳を真っすぐに見つめ返し、「できません」と呟いた。一瞬、綱吉の顔から表情が消える。 「……そっか」 綱吉は獄寺の頬に添わせていた手をゆっくりと下に移動させた。しゅるり、と布の掠れる密やかな音と共に、獄寺の首に巻かれていたネクタイがほどける。綱吉は獄寺のシャツに手を掛けると、にこりと微笑んだ。 「なら、ボス命令、ってことで」 「な、っ!?」 びりり、と布を裂く音が部屋に響いた。力任せに引かれたために留められていたボタンは飛び、薄い生地は裂ける。綱吉の突然の行動に獄寺は一瞬目を見開いたまま固まる。しかし綱吉の手が素肌に触れるのを感じ、顔を青ざめさせた。 「な、にを……っ」 「獄寺君なら分かるでしょ?」 獄寺君はボンゴレのブレーンだもんね、綱吉は笑う。曝け出された肌に添えられた掌の冷たさに、獄寺は鋭く息を呑んだ。添えられた手が明らかな意図を持って動き始め、獄寺は唇を噛みしめた。 「ん、……ぁ、」 綱吉の指に胸元の飾りをつままれると、獄寺はびくりと身を震わせた。 「いい反応」 くすくすと鼓膜を揺らす笑い声に、獄寺はかっと頬に熱が集まるのを感じた。綱吉は飾りを指の腹でこね、爪先で軽くひっかくと、必死で声を抑えようとする獄寺を見下ろしながら、唇だけで笑う。 「感じてるんだ、これだけで」 さすが、って言うべきなのかな?、強く飾りを摘ままれて獄寺の口から明らかな艶を孕んだ声が漏れる。 「ぁあ、っ――・・ぁ」 「――その声を、山本にも聞かせたの?」 微笑みと共に発せられた綱吉の言葉に、ぴくり、と獄寺は身を強張らせた。思わず呆然と綱吉を見上げた獄寺に、綱吉は笑みを深める。 「獄寺君って取引の時はすごく狡猾なのにさ、こういう時はわかりやすいよね……ほんと、変わってないなぁ」 俺が気付いてないとでも思った?、耳元に囁かれた言葉に、獄寺は返す言葉が見つからなかった。山本との関係を知られていたという事実よりも、見下ろしてくる綱吉の眼差しの冷たい現実が、獄寺を動けなくさせていた。抵抗を忘れた獄寺に、綱吉は今まで指で弄んでいた飾りを口に含むと軽く歯を立てた。痛みを含んだ快感に掌を握りしめるとしゃらり、と鎖の冷たい音色が獄寺の鼓膜を揺らす。綱吉は胸元の飾りの片方を口で刺激しながら、もう片方の飾りを指で強く刺激し始めた。異なる二つの感覚に声を殺して喘ぐ獄寺の顔を見つめる綱吉の顔は、やはり、笑顔だった。 「ここ、そんなにいい?」 刺激されてぷっくりと存在を主張する飾りを綱吉に指先で弾かれ、獄寺は喉をのけぞらせた。綱吉は反らされた首元に唇を寄せる。首筋から鎖骨の上まで唇でなぞり、時折痛みを感じるほど強く吸い上げられ、獄寺はひゅ、と息を呑んだ。 首筋に口付けながら、綱吉は片手で獄寺のベルトを抜き取ると、スラックスを下着ごとはぎ取ってしまった。素肌に感じた冷たい空気に顔を上げた獄寺は、自身の肢体をじっと見つめる綱吉の視線に気づいてさっと頬を朱に染めた。 「獄寺君、可愛い」 綱吉の言葉に、獄寺は更に顔を染めると歯を噛み締めて顔を反らした。獄寺の中心は薬――そう、綱吉が獄寺に淹れたコーヒーに仕込まれていた薬――の効果もあってか既に緩く立ち上がり、先からは先走りの蜜が溢れている。そっと綱吉の手がそこに添えられ、獄寺は身を捩って抵抗を始めた。 「やめ……放してください!!」 「ここは反応してるけど?」 「痛っ、、――ぁ、あ」 綱吉に強く中心を握りしめられ、獄寺は背を仰け反らせて喘いだ。 「や、だ……――ぁ、はっ」 綱吉は獄寺の花芯に指を絡ませると、激しく上下に扱き始める。急に与えられた直接的な刺激に、獄寺は身を跳ねさせた。息もつかせなほどの激しさに、薬によって高められた身体はすぐに達した。白い精が、花芯の先から滴る。獄寺が吐きだしたばかりの精を、綱吉はぐったりと力の抜けた獄寺に見せつけるようにして舐め、にっこりとした。 「ずいぶんと濃いね。欲求不満?」 綱吉の言葉に、獄寺は思わず綱吉を睨みつける。しかし綱吉はその眼差しすら心地よいとでも言いた気に微笑むと、身を屈めて獄寺の耳に舌を添わせた。獄寺は首を捻ってそれから逃れようとしたが、綱吉の舌は執拗に獄寺を追いかける。赤く染まった耳朶を甘噛みし、息を吹きかける。 「ねえ、山本以外の男とは寝てないの?」 耳元への湿った吐息と共に囁かれた名前に、獄寺の瞳が震える。綱吉は笑みを浮かべて獄寺の表情を見守った。 「一途なんだね、獄寺君。でもさ、山本はそうじゃないかもしれないよね」 案外今頃君以外の誰かを抱いてるかもしれないよね、面白そうに続けながら、綱吉は獄寺の瞳を触れ合うほどの近さで見つめた。 「山本にとって君との関係はただの“ごっこ”――遊びにすぎないのかもしれないよ」 「山本はあなたとは違う!」 獄寺は叫んだ。瞬間、綱吉の瞳がすっと細められる。 「俺とは、違う……?」 「ぁ、!……――ぅ、……ぐっ」 綱吉は獄寺の細首を掴むと、そこに力を込めた。獄寺の口からくぐもった喘ぎが漏れる。ゆっくりと首を絞める圧力が強まり、獄寺は足をばたつかせて抵抗した。しかし綱吉は獄寺の抵抗をものともせず、苦しみに歪む獄寺の顔をじっと覗き込むだけだった。 「――獄寺君は、面白いこと言うね」 地下から這い上がるような声で、綱吉は言った。しだいに抵抗を弱める獄寺の身体は、海から上がった魚のようにぴくぴくと跳ねる。 「つまりさ、君は俺が“ごっこ”のつもりで君を抱こうとしている、とでも言いたいの?」 「く……っげほ、げほ、……」 乱暴に首から手を外され、急に入り込んできた酸素に獄寺は噎せ、咳き込んだ。獄寺の瞳に滲んだと涙を綱吉は指先で拭い、至極優しい声でささやいた。 「なら、君もせいぜい楽しみなよ」 「ん、く………っぁ、」 獄寺は、目を見開いた。綱吉は獄寺の両脚を肩に担ぎ上げると、固く閉じられた後孔に強引に指を突き刺した。先ほど獄寺が放った蜜を潤滑油とし、綱吉の指は狭い蕾を引き裂いていく。粘膜質な音に、獄寺は聴覚からも犯されるような思いに駆られた。 「まだ一本しか入ってないよ」 「い、……ぁあ」 二本目の指を挿入され、獄寺はそのすべらかな胸元を仰け反らした。胸元の飾りは赤く染まってその存在を主張している。先ほど達したばかりの花芯はもうすでに立ち上がっていた。 綱吉の指がある一点を掠めた時、獄寺の口から熱い吐息が漏れた。途端、綱吉の顔に暗い笑みが浮かぶ。 「ここ?君は、ここがいいんだね」 その一点を執拗に責め立てられ、獄寺は首を振ってその刺激から逃れようとする。綱吉は獄寺の細い腿を押さえ込むと、更にそこを強く刺激した。 「あ、、あぁ――……っ、」 獄寺の花芯から、蜜が滴った。しかし、獄寺の身体を蝕む熱が治まることはなかった。達したばかりだというのに、獄寺の中心は既に熱を持ち、緩く立ち上がる。獄寺は悶え、無意識に綱吉を誘うように見上げた。綱吉の唇が歪む。 「どうして欲しいの?ねえ、言ってごらんよ」 綱吉の穏やかな声に、しかし、獄寺は静かに瞼を伏せると「あなたに言うことなど、何も、ありません」と呟いた。 「それが、君の答え?」 「……」 「――そっか」 綱吉は一度深く溜め息を吐くと、獄寺の細腰を掴んで身体を反転させた。頭上で拘束された腕が捻れ、獄寺は苦痛に顔を歪ませた。綱吉は反転させた獄寺の腰を支えると、腿を立たせさせた。まるで獣のような格好をさせられ、獄寺は激しく抵抗したが、後穴に押し当てられたものの質量に、ひゅっと息を呑んで固まった。 「じゃあ、しょうがないね……その気に、させてあげるよ」 「ゃ、め……――っ、!」 綱吉は獄寺を自身で一気に貫いた。ひゅ、と獄寺口から声になりきれない悲鳴が上がる。綱吉は獄寺の息が整わぬうちに自身をギリギリまで引き抜き、また勢いよく挿入した。肉の打ち付けられる乾いた音が響く。獄寺はすでに腕で自身の身体を押さえることは出来ず、肩をベッドに押しつけ喘いだ。 「あったかいね、獄寺君の中」 綱吉は無邪気に息を吐くと、獄寺の内部に息づく一点を執拗に攻め立てた。ぴくりと跳ねた肩に噛み付きながら、綱吉は獄寺の髪に指先を絡ませた。乱れた銀髪が、汗に濡れた首筋や背中に張り付いていた。獄寺の髪に口づけながら、綱吉は呟いた。 「今の獄寺君を山本が見たら、何を思うかな?」 「ひっ、――いや、ぁ……」 「今までみたいに、“ボスと右腕の関係だ”って、笑ってくれると思う?」 綱吉が腰を激しく突き上げれば、獄寺は泣き叫んで首を振った。獄寺が首を振って悶えるたびに、銀髪が細い首筋を打つ。シーツを噛み締め声を抑えようとする獄寺の顎に手をそえ、綱吉は強引に自分の方を向かせた。 「山本に見せてあげたいな。――君が、俺を求める姿を……」 「いや、……や、――だ、」 獄寺の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それはきめ細やかな頬を伝い、シーツに落ちて染みとなる。綱吉が顎を支える手を離せば、獄寺の顔はシーツに沈む。腰を何度も突き上げると、獄寺の口から細切れの喘ぎが漏れた。綱吉は濡れる獄寺の花芯に手を添わせた。 「ひぃ、……ぁ――っ、や」 もうすぐ、というところで、綱吉は獄寺が達するのを押さえ込んだ。花芯の根本に、先ほど獄寺の首から解いたネクタイ――それは右腕を称する彼の首元にいつも乱れなく結ばれていたものだった――をきつく結びつける。達せぬ苦しみと痛みに、獄寺は泣き叫んだ。 「放しっ、……やめ、……くだ、さっ――」 「だったら、もっと上手に頼んでごらんよ」 おねだりは得意だろう?、綱吉の言葉に獄寺は激しく首を振った。 「強情だね。――せいぜい、苦しみなよ」 綱吉は獄寺の腰を固定すると、獄寺を激しく突き、最奥まで自身を突き入れた所でその欲望の全てを吐きだした。自分の中に迸る大量の熱に、獄寺は唇を震わせる。根本を拘束された獄寺は、達せないままだった。 ずるり、と自身を引き抜くと、綱吉は満足げに唇を舐めた。獄寺の蕾からは今綱吉が吐き出したばかりの欲が溢れ、白い腿を伝っていた。綱吉は自身の服を軽く整えると、ベッドから立ち上がり獄寺の顔を持ち上げた。涙で濡れた瞳はとろけ、ぼんやりと虚空を見つめている。綱吉は獄寺の頬を軽く叩き、その耳元に呟いた。 「そのまま、じっくりと考えるといいよ。君の本当の主人は、誰なのか」 「ゃ、……や、ぁ……」 獄寺の瞳が見開かれる。微かに紡がれる声を聞くことなく、綱吉は冷たい笑みのひとひらと獄寺とを残して部屋を後にした。 扉は音すら立てずに閉ざされた。 BACK/TOP 2010.1.4[end]
誠に、すみません
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